深圳ローカル考(2)/「シェアサイクル」の現場から

「30分15円」でも利益率50%

中国の自転車シェアサービス大手「Mobike(モバイク)」の日本法人は8月末、札幌市でサービスを始めたと発表した。同じ大手の「ofo(オッフォ)」はソフトバンクグループ傘下企業と組んで、9月以降に東京と大阪で同様のサービスを開始する。

中国ではこの大手2社でシェア70~80%以上を占有している(注:統括した客観データに差異あり)。その一方で、『CNPP/買購網』が今年行った知名度ランキング調査で投票を得た会社は12社あり、うち1社『youon(永安行)』以外は、すべて、ofo(オッフォ)の後発組、いわば新興コピー企業である。

ビジネスモデルがシンプルゆえに参入(真似)しやすい業種ゆえに、利益率も「50%」と高い(平安証券の推計~1/19付・現代ビジネス)。だからこそ、各社それぞれ豊富な資金にモノをいわせ、身近にいつでも自転車があるという利便性向上に競いあっている。

中国では「30分・1元」約15円が基本料金だが、値下げ合戦が高じて無料キャンペーンの乱発するなど、大都市での「焼銭大戦(金を焼くような速度で行う消耗戦)」を続け、とうとう深センでは新規車両の投入を制限されてしまった(8/25深圳商報 *参考 9/4本サイト)。

こうなると、中国での展開は、今後より一層やりにくくなるだろう。別名「実験都市」とも呼ばれる深センで効果を示した「特例(エリア限定の法律)」は、比較的スムーズに全国レベルで適用される。こういった事情から、海外に活路を求めた(初めからそのつもりだった)のが、日本進出というわけだろう。ちなみに、日本の基本料金は「30分・150円~」(DOCOMOバイクシェア)が相場。およそ10倍のサービス販売が見込める日本マーケットはオイシイはずだ。

新規車両の投入風景。昼間は見かけない(写真は武漢)

 

 

厄介な「マナー問題」

深センにおける新規車両制限の主な理由は、利用後の放置自転車が社会問題化し、シェア自転車が増えすぎたことに尽きる。草むらや海辺に投棄する利用者のマナーの問題をとりあげるニュースは枚挙に暇がないが、じつは「壊れたから仕方なく」と自転車の品質を疑う声も少なくない。自転車シェアサービス各社の動向を報じる複数サイトで「1台1,000元」(約1.5万円)と報じられているが、そのわりに壊れやすいのは、せいぜい600元(1万円以下)で設備投資をケチっているという見方も根強い。同時に、自転車の扱いが荒いから壊れるのであって、マナーの問題という指摘もある。同じような問題はお隣(民度が高いとされる)香港でも起きており、『GoBee.Bike』創業者が「香港に対して失望した」とコメントするだけで、具体的な施策には手がついていないようだ。

また十分に確保できていない、駐輪スペース(DOCOMOバイクシェアでは「ポート」と呼ぶ)も悩みの種となっている。そもそも2015年末頃からサービスを運営するうえでの合法性を問う声も挙がっていた。もともと深圳市には公共自転車貸出サービスが存在しているが、その棲み分けが不透明であるがために、具体的には市の予算で作った公共駐輪スペースを、民間の自転車シェアサービス会社が無償で使っているという指摘だ。

だが厄介なことに、ここでも「マナー問題」が登場する。公共駐輪スペースに乗り捨てているのは「ユーザー」であって、会社としては禁止しているにもかかわらず……という理屈である。そのため対策を先延ばしにせざるを得ず、さらには、サービス会社側がマクドナルド等の大手飲食チェーン店と契約を交わし、「店先を借りる」という体裁で駐輪スペースを確保していたりもするから、駐輪スペース問題をややこしくしている。アプリ上の表示を目立つように掲載するかわりに「店舗側が無償提供している」そうだが、そもそも店舗側に公道を貸し出す権利はない。

左:公道を占拠する店先の駐輪スペース。右:標示も英語表記で本格的(写真は武漢*これほど露骨なケースは深圳では見当たらない)

 

規制もインフラ

さて舞台は日本である。マナーを重視し、駅前などの放置自転車に対する規制が厳しい日本は、道徳的なインフラが整っている。中国勢に先行する『DOCOMOバイクシェア』へポートを提供する企業(一般財団法人機械振興協会、グランパーク、GLOCAL CAFÉ、株式会社サークルKサンクス、品川シーズンテラス、ハマサイトグルメ、ホテルアジア会館、日本電波塔株式会社、三菱地所株式会社、森ビル株式会社 *同社HPより)は全社無償で協力している。さらに言えば、日本の場合、運営主体が地方自治体であるケースがほとんどで、中国の自転車シェアサービスの運営は営利企業だ。

そんな日本は、中国の自転車シェアサービス会社にとって「マナー」に端を発する諸問題が起こりにくく、まだ荒らされていないオイシイ市場だ。

彼らの日本進出がさらなる投資を募るための単なるトピックにしか過ぎないのか否か――。

本腰を入れて日本向けにビジネスを始めるにしても、サービスを通して集めたデータの扱いについての法律は有るのか無いのか――。これらの論議も不十分であるうちに、駐輪スペースまで“おもてなし”することが起こらぬよう、2020東京五輪向けの駐輪スペースを作ってもらうぐらいの商魂が欲しいと思うのは筆者だけではあるまい。

 

【ライター:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部)  】

 

加藤康夫
華南NET代表、東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社  契約記者。深圳大学(中国広東)留学を経て華南(香港)日商企業信息資訊有限公司設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「Kanan
monthly」発行。プロモーション・マーケティング支援、法律実務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。
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