深圳ローカル考(12)/深センと和牛、2つのブームで考えた

■深センはスゴイ街?

香港で起業後、2000年から16年間住み、現在、福田区にある法律事務所に籍を置く小職にとっては、ふって湧いたような深センブームが起きている。

でも、小職の周りのビジネス環境は、今のところ、ほぼ何も変わっていない(少なくとも肌感覚で)。年齢を重ね、鈍感になったのかと不安にもなっているところに、いろいろ聞かれるので、あえて無理やり賭博に例えてお答えしている。

今の深センは、最低ベッドが5倍になったイメージだ。勝つ確率(≒リスク)は変わっていない。当たれば大きくなったという意味ではスゴイ。

――とこの程度に留めておく。まずは実際に足を運んでほしいからだ。

とはいえ、ショバ代をしっかり取るような動きが気になる。

ショバ代の徴収で、胴元が最終的に儲かるシステムは健在である(同時に「日本企業村」もあいかわらず健在)。そんななか、今や「ハードウエアのシリコンバレー」であり、「世界有数のスタートアップ都市」という呼び名が、20年前以上の「世界の工場」とシンクロしているように感じるのだが、余計なお世話か……。

 

前置きはこのあたりにして、昨今の深せんブームに関する論評は、評論家・山形浩生氏による的確な指摘で、そろそろお開きにして十分だろう。

http://president.jp/articles/-/24016

<うわべだけで「深セン」を語る恥ずかしさ~本質は「モノ作りの生態系」にある

(プレジデント・オンライン 2017/12/16)>

山形氏は、藤岡淳一著『「ハードウエアのシリコンバレー深セン」に学ぶ』と高須正和編著『メイカーズのエコシステム』(ともにインプレスR&D)2冊の書籍から、本当のスゴさとその背景を解説してくれている。

 

■和牛もスゴイ……輸入国カンボジア五連覇?

深センよりも早い時期から、しかも根強いブームだったものは、「日本産和牛」だ。

輸入禁止だった和牛が、深センでは市場に堂々と出回っていた。

 

 

 

http://lin.alic.go.jp/alic/statis/dome/data2/i_pdf/8000a-8000b.pdf

 

農畜産業振興機構・畜産需給部需給業務課が毎年発表している「国内統計資料」によると、冷蔵牛肉は香港が5年連像(2012~2017年)で第一位、冷凍牛肉はカンボジア(同)が同じく五連覇。小職は実際に目にしたことがないので、拙稿では触れないが、「カンボジア・ルート」云々は、ネットで検索していただきたい。

 

小職が遭遇したのは、焼酎やウイスキーの栄枯盛衰ぶりだ。例えば――。

・「いいちこ」のニセモノが出回り過ぎたので、現地在住日本人の間では「二階堂」が流行したが、すぐにニセモノも出回り始めた。今の旬(売れ筋?)は「黒霧島」である。

・中国国内に出回る「上善水如」はほぼ非正規代理店ルートで仕入れられている。

・「角瓶」(サントリー)の空瓶とキャップは高値で回収されている

・深センにある業者の卸値は、正規輸入代理店の価格より、5~10%ほど安い。

これらはすべて、体験した事実である。

 

■にわかブームに右往左往しない

こういった、右から左の、限りなく黒に近いグレーなビジネスは、中国というアウェイで、外国人は手を出すべきでは類の商売である。日本人ならなおさら、と思う。

右から左のビジネスは、市場の変化がとても早い。参入が簡単なぶん、プレーヤーはいつでも足ぬけできるよう、準備を整えているものだ。

前出した山形氏は、「(松下幸之助で見習うべきなのは)大正時代に勢いだけの思いつきで廉価な二股ソケット製造法を考案し、それを速攻で商品化して売りさばいたアイデアと商品化の速度のほうなのだ。経営理念だのなんだのは、それが成功した後のあとづけの理屈でしかない」と述べている。

にわかブームに右往左往することなく、アイデアと実践の速度アップを、日本企業は課題にするべきだ――と締めくくりたいところだが、門司税関が作った「牛肉の輸出~2015年輸出数量、金額過去最高。シェア全国第1位」を見て脱力した。

今後の課題に「中国への輸出解禁に向け、働きかけを行っていく」とあるが、外国産和牛「WAGYU」との違いを理解してもらいたいのなら、カンボジア・ルートの断絶のほうが、中国に対してよっぽど効き目があるだろう。

もはやカンボジアが中国贔屓だというなら、身内の税関と協力して、日本在住の調達業者を洗ったほうが合理的だ。冷凍和牛以外の“迂回系高級品”のついでに、“転売系高級品”に巣食う輩がごっそり見つかるだろうから。

大手韓国料理チェーン・漢陽館でも「和牛」がメニューに。

 

 

【ライター:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部)  】

 

加藤康夫
華南NET代表、東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社  契約記者。深圳大学(中国広東)留学を経て華南(香港)日商企業信息資訊有限公司設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「Kanan
monthly」発行。プロモーション・マーケティング支援、法律実務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。

Add a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です