深圳ローカル考(18)/旧正月前、高級牛肉に見るボッタクリ事情

「500グラム・120元で、南米産リブロースが買えないっ!」

弊社が設立に携わった武漢の食材卸売会社から悲鳴が上がったのが、2月上旬でした。100g400円――日本のスーパーで売っている牛肉としては、良いほうの部類になるでしょう。輸入牛肉なら100g198~298円ほど、特売だと100g98円がスーパー相場ですから。

さて、「買えない」というのは、ご覧のように人気殺到で、冷凍トラックまでたどり着けないから(写真下)。高いからではなく、お金があっても購入できないのです。

(日本より2倍割高な南米産牛肉に群がる旧正月需要)

 

卸売会社の社員によると、トラックが到着するや否や、エンジンが停まるか停まらないうちに、その場でセリが始まるそうです。そもそも市場に販売スペースをもつ業者が発注した商品であるはずなのですが、業者への納品前に売り切れてしまう勢いです。

そのうえ、100g400円の輸入牛肉――この価格は卸値です。スーパーに並んでいる価格ではありません。景気の良し悪しに関係なく、ボッタクリであろうがなかろうが、中国の旧正月前は、便乗値上げが許容される文化なのです。

 

■「香港経由で20倍」は普通!?

主役の牛肉はブラジル産でした。

食肉不正問題が発覚した昨年、迅速に輸入を禁止した中国ですが、真っ先に解禁したのも中国。美味しい牛肉に餓えています。

著者が知るかぎり、4年ほど前、日本産和牛の“香港⇔深圳(ハンドキャリー?)ルート”は健在でした。関係者によると、ルートの安定性と品質の高さは中国内陸部にも知れ渡っており、成都の和牛専門高級日本式焼肉店では、なんと卸値の20倍の価格(原価率はたった5%!)が付いていたそうです。

いまだに日本産和牛の輸入禁止は解かれていません。そのかわり幅を利かせている高級牛肉がオーストラリア産WAGYU(中国表記は「澳州和牛」)です。

ちなみに、中国産の高級牛肉も出回っています。ブランド名は『雪龍黒牛』や『雪花牛肉』などで、オーストラリア産WAGYUとほぼ同等の評価で販売されています。

オーストラリア産にしても中国産ブランドにしても、レストランで消費者の口に入るときに、価格が20倍に吊り上ることはあり得ません。その一方で、原価率5%でも有難がられるほど、日本産牛肉への期待は大きいと言えます。

(A4よりもA5。数が多いほうが高級という考え方は広まっている)

 

■お金で買えないものが高く売れる

武漢から「お金があっても買えないっ!」という卸売会社の反応が、日本の中国大陸人富裕層向け戦略のあり方を考えさせてくれました。

ご存知のとおり、中国人富裕層の購買力は高いです。高級牛肉のケースも、とくに旧正月(春節)、5月のGW(ゴールデンウィーク)、建国記念(10 月1日)の連休などでよく売れるそうです。一度に購入する量も多いにもかかわらず、大量購入する際は値段交渉をするのが一般的な中国で、高級牛肉を大人買いする顧客は値段をあまり気にしないそうです。

つまり、価格がやたら高い商品を“おもてなし”でさらに高級に見せかけて売るのではなく、もの珍しかったり希少な商品やサービスなどを発掘し、高く売る工夫をしたほうが、手っ取り早いインバウンド戦略ではないかと思うわけです。

そういえば、冒頭のブラジル産牛肉トラックも、広告やPRにコストをかけることなく、無店舗型ビジネスを実現させています。つくづく中国人は商売上手です……。

 

【ライター:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部)  】

加藤康夫
華南NET代表、東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社  契約記者。深圳大学(中国広東)留学を経て華南(香港)日商企業信息資訊有限公司設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「Kananmonthly」発行。プロモーション・マーケティング支援、法律実務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。

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