深圳“テック外”市場動向(3)/近ごろ落ち目のカルフール(家乐福)後編

深圳現地法人を17年間経営していた著者には、最近の深圳ブームに感慨深いものがあります。その一方で、深圳という街をいろいろな側面から知っておきたいものです。

この拙稿『深圳“テック外”市場動向』では、株式会社TNCリサーチ&コンサルティング様の協力を得ながら、“テクノロジー関連以外”の深圳という街をよく知るためのマーケット分析をお伝えいたします。

『近ごろ落ち目のカルフール(家乐福)』<中編>では、カルフールが落ち目になってしまった理由6つのうち、3つを紹介しました。どれもカルフールが先駆者として中国に持ち込んだ“武器”だったのですが、今では陳腐化してしまったわけですね。今回の拙稿<後編>では、残る3つの理由をご紹介させていただきます。

 

■サプライチェーン、集中購買の功罪

いまではカルフールは集中購買をしていますが、以前はそうではありませんでした。

各店の店長が自主購買権を持ち、基本的には全ての商品を配送センターではなくて店舗に直接配送させていました。これがカルフールの強みといわれている時代もありましたが、逆にこれを続けることでサプライチェーンの整理をするということができなかったと言われています。

フランス本国ではちゃんと自らのサプライチェーンを持っていて、中国だけは別だったのですが、2015年にようやく自社の配送センターを持つようになり、集中購買を行うようになっています。

店長が自主購買権を持っていた時代は、店舗の地域に合った品ぞろえができていたのが強みといわれた時代もありました。ただしそのぶん、多分“袖の下”も相当横行していたのではないかと思います。

▲同じ商品を2個購入すると、2個目が半額になるキャンペーンのチラシ

 

■奥深い袖の、不正前提のカルチャー

“袖の下”といえば、一般的な日本人ですと「お主も悪よのお……」の台詞が似合う悪代官が想像されがちですが、どこからどこまでを袖の下を指すのか、この辺りがポイントになると思います。

著者の所属する深圳の法律事務所では、ありとあらゆる袖の下、贈賄側も収賄側も見てきました。

結論から言うと、中国の袖の下カルチャーは無くなりません。ただ、やっぱりヒドイ国だと思うのも早とちりです。例えば日本で行われている「入札」は一般入札だったり競争入札だったり、それにともなう「接待」もあり、自動更新もありで、完全な公平とは言い難いケースも多々あります。自殺者まで出している森友学園問題、あのような問題が日本で二度と起こらないかといえば、あいかわらず国民の道徳性に委ねられているのみです。

中国の袖の下カルチャーが日本と異なる点を強いて挙げるのであれば、性悪説社会ゆえに容赦なく私腹を肥やす点です。

2003年3月から2011年2月までの丸8年間、中国政府“鉄道部”の“部長(大臣)”として君臨した劉志軍、彼の不正収入は600億元(約7500億円)と言われています。1年平均1000億円弱、1か月平均80億円、1日平均3億円弱!――こうした案件について返ってくる感想は、「彼はやりすぎた」「政争の結果だ」ぐらいで、「彼はトンデモナイ悪人だ」という殊勝なコメントは、残念ながら著者のまわりでは聞いたことがありません。

▲日本企業は収賄に関する管理が緩いと思われている

 

■焦点を合わす時間さえも足りない、市場のスピード感

本題からそれました。

1995年に中国に進出したカルフール、当時は月収1500-3000米ドル程度の層をターゲットにしていました。多くの外資企業の中国市場開拓と同じく、まずは一・二線都市から入り、だんだん田舎に攻めていくというものですが、この一・二線都市で儲ける時代は本国フランスほど長くなかったようです。

中国経済成長のスピードが速い分、人稼ぎできる期間も短期になったということでしょう。時代に合わせたビジネスを模索していく必要があります。

たしかに模索しているようでして、高級ホワイトカラーを対象にした新たな大型スーパーを開業するようです。なんだかんだいってカルフールという名前は今でもそれなりの影響力はあります。

中国事業売却の話もずっと取りざたされていましたが、永輝超市を通じてではありますが、テンセントや京東の出資を受けましたので、売却話もひと段落かと思います。ネット系企業の資本参加により今後どのような変化がみられるか、その動きを見ていきたいですね。

 

【文:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部) 】

加藤康夫:華南NET代表、東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社契約記者。深圳大学留学を経て、華南(香港)日商企業信息資訊有限公司(華南NET)設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「KANAN MONTHLY」発行。プロモーション・マーケティング支援、法務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。

【協力:(株)TNCリサーチ&コンサルティング(代表・呉明憲)東京&上海をベースに活動する中国ビジネス専門コンサルティング会社。事業内容は、中国投資アドバイザリー、経営コンサルティング、市場調査・マーケティング、M&A、販路・仕入先開拓、顧問契約など。http://tnc-cn.com 】

 

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