深圳“テック外”市場動向(4)/中国アディダスの元幹部社員エピソード[前編]

この連載では、株式会社TNCリサーチ&コンサルティングの協力を得ながら、“テクノロジー関連以外”の深圳という街をよく知るためのマーケット分析をお伝えいたします。

「中国における外資スポーツ屋外ブランドのランキング」を見ているうちに、4年前まで深圳で一緒に働いていた中国adidas(阿迪达斯)の元幹部社員のことを思い出しました。

中国adidas(阿迪达斯)も中国に進出した外資企業です。アウェイの中国大陸で奮闘していますから、日本企業にとって参考になります。

さっそく、<好きなブランドと嫌いなブランドのランキング>をご覧ください。このランキングでは「戸外スポーツブランド」とありますが、まあ一般的なスポーツブランドと考えてもいいのではないかと思います。

↑左が好きなブランド、右が嫌いなブランドです。

好きなブランドのトップはナイキ(53.9%)、第2位がアディダス(48.4%)、ちょっと離れて第3位がニューバランス(21.2%)。嫌いなブランドは、ほぼ同じ並び。人気ブランドは目立つので、そのアンチもいるということでしょう。嫌いなブランドトップ3は1位と2位の入れ替わりがありますが、銘柄は同じです。1位アディダス(25.7%)、ナイキ(22.8%)、ニューバランス(17.3%)となっています。

残念ながら、好きなブランドでは、日系ブランドはことごとくランク外。嫌いなブランドの第4位がオニツカタイガー(13.6%)、第7位にミズノ(10.0%)がランキング入り。ようはアンチしか存在しないわけです。ポジティブ評価に対してアンチがいるわけでなく、もしそのブランドを知らないということであれば、そもそも好きでも嫌いでもランキング入りしませんから、知名度があるのに嫌われているという残念な結果に……。

■手取り1/4でも入社した理由

「嫌われている」で、中国adidas(阿迪达斯)元幹部社員のエピソードを思い出しました。

彼女は20代後半で1000万弱都市のエリアマネージャーでした。ところが地元有力者の紹介で、著者が代表を務める小さな会社で働くことになりました。著者の会社が、彼女の母親が入院する病院の近所にあり、「仕事に支障が出ない範囲でいつでも看病に行ってよい」という条件に応じたからです。

手取りの給与は1/4(7000元)に下がったのも、彼女本人は納得済み。実兄がアフリカに赴任中でもあり「親孝行の良い機会」だと割り切っていました。

彼女は淡々と仕事をこなし、adidas時代の3万元クラスの成果を見せつけてくれました。あれだけデキれば、誰もが好きになるであろうと思わせるパフォーマンスでした。

 

■CEOに愛される社員

そんな彼女でしたが、中国adidas退社後も、総裁(CEO)とWe Chat(微信)で頻繁に連絡を取り合っていました。かなり密につながりを維持していて、「いつでも戻ってきてかまわない」と次なるポストまで約束されていました。社員として、愛されていたんです。

あるとき彼女から突然渡されたスマホの相手が、中国adidasの総裁だったことがありました。その第一声は、キツイ冗談――「ずるがしこい日本人老板(社長)は君か? どうやって彼女を騙しているのだ?」。それから数分、総裁を話し込みましたが、著者の会社の良いところ悪いところや著者個人の良いところ悪いところなど、いろいろ指摘されました。彼女がいろいろ相談していたらしく、「(著者の会社の)商売繁盛は彼女の幸せにつながるから」と営業先まで紹介してくれる気の遣いようで恐縮したことを覚えています。

あとから彼女に著者の会社で働いている理由を尋ねました。

「外資系企業は性に合っている。なぜなら約束がきちんと守られるから」。

彼女曰く、3万元以上の月給も約束だし、7,000元プラス母親の看病も約束だというのです。

一方で、中国人や中国企業は――「約束を守らない」のではなく、「環境や組織の原因で、約束が守れない。守れない企業文化が常態化している」とめった斬りしてくれました。

強いブランドイメージを構築するということは、消費(購入)者との約束を守り続けるということでもあります。そして、ブランド商品を扱う会社であるからこそ余計に、社員どうしでも約束を守り合うことが前提というわけです。

さて拙稿の後編では、中国adidas時代の、彼女の仕事ぶりをご紹介します。

 

【文:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部) 】

華南NET代表。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社契約記者、深圳大学留学を経て、華南(香港)日商企業信息資訊有限公司(華南NET)設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「KANAN MONTHLY」発行。プロモーション・マーケティング支援、法務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。

【協力:(株)TNCリサーチ&コンサルティング(代表・呉明憲)東京&上海をベースに活動する中国ビジネス専門コンサルティング会社。事業内容は、中国投資アドバイザリー、経営コンサルティング、市場調査・マーケティング、M&A、販路・仕入先開拓、顧問契約など。http://tnc-cn.com

 

 

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