深圳ローカル考(8)/滴滴出行、日本進出③~迎車対応は運転手次第?
|タクシー配車サービスで世界最大手の『滴滴出行』日本進出を、都内の現役タクシー運転手はどう見ているのか?
――迎車料金が無料で、キャッシュレスの配車アプリの登場で、仕事はどうなるか?
前稿「キャッシュレスの日中事情」では、カードとアプリという支払い方法が異なるだけで、それらの利便性は、少なくとも運転手側には実感されていないということが聞き取れた。利用する側にとっても、たいして相違はないと思う。個人的にはアプリ支払いのほうが便利だが、無くても困らないという程度だ。
やはりポイントは、滴滴出行なら無料の迎車料金だろう。
迎車は完全無料ではない
全国タクシーと異なり、滴滴出行は迎車料金が無料になる点については、インタビューをした全員が「客が増えるなら助かる」と歓迎している。
ただし、「会社が(無料送迎分を)肩代わりしてくれるなら」という条件付き。さらにこんな意見もあった。
「都内よりむしろ、郊外やアクセスが不便な観光地で重宝するのでは」
「ウィークデーはいらない。週末なら無料でも迎車したい」
「ビジネスアワーはよほど近所からの依頼でないと対応しないだろう」
ざっと聞いてみると、どこか他人事といった感じが強い。
そもそも中国では、迎車料金は平常時が無料であるだけであって、ラッシュ時など売り手市場であるときには『調度費』という機能を使って、近所にいるタクシーを落札しなければならない。プラス5元(75円)では無視されるが、プラス10元(150円)なら迎車してくれる等など、かなり現実的な市場原理が取り入れられている。ラッシュ時に100円少々をケチるだけで30分以上待たされることも少なくないからだ。
客が迎車料金を決めるシステム(「調度費」)も課題は山積み。
中国の主要な空港や駅は、調度費の有無に関わらずタクシーは所定スペースで客待ちをしなければならない。(深センであれば、宝安空港や羅湖駅、皇崗口岸イミグレなど)
最大手・全国タクシーの出方次第
ちなみに、滴滴出行側が前出・調度費を推薦する機能「建議(提案)調度費」は、「提案ではなく強制だ」とユーザーの不評に遭い、上海などの大都市で停止中になっている。
http://m.iqilu.com/pcarticle/3376242 2017-02-08斉鲁網(山東テレビ)
ラッシュ時に建議(提案)調度費を受け入れないと、タクシーがなかなか迎えに来ないため、「滴滴出行が暴利を得ている」と批判されたわけだ。(実際は全額タクシー運転手の収入)
無料か否かを論じる前に、こういう市場にフレキシブルに対応するシステムも同時に導入するなら、日本最大手の全国タクシーでも取り入れやすいと思う。ただその前に、出勤シフト体制の再編や公共客待ちスペースの使用方法など課題は少なくないが……。
最後にインバウンド需要に触れたいと思う。結論を先に言うと、一時的な収入アップになるだけで需要の大きな掘り起こしにはなり得ないだろう。
2016年のインバウンド客数はおよそ2400万人。消費額は約3兆7500億円(観光庁データより)。中国からのインバウンド客数比率は27%(訪日外国人の1/4)、そのうち本国の滴滴出行ユーザー数は約4.5億人(中国全体の人口の1/4)。ようは昨年実績で150万人、2020年東京五輪時に倍増すると仮定して300万人のうち、いったい何割がタクシーを利用するのか。
それよりも滴滴出行の進出により、日本のタクシー業界に競争原理がはたらき、利用料金がリーズナブルになるぐらいしか、著者にはメリットが思いつかない。
【ライター:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部) 】
加藤康夫
華南NET代表、東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社 契約記者。深圳大学(中国広東)留学を経て華南(香港)日商企業信息資訊有限公司設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「Kanan
monthly」発行。プロモーション・マーケティング支援、法律実務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。
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