深圳ローカル考(20)/中国KFCの「ザリガニバーガー」を侮るなかれ
|中国に進出している外資ファストフードの雄といえば、ケンタッキー(中国語:肯德基)です。
1987年中国進出して以来、中国地区の売り上げが全世界の約半分を占めるまでに成長しています。KFCの現地化戦略は徹底しています。10元以下の油条(中国風揚げパン)とおかゆという、朝食メニューを一斉に導入した時の衝撃はいまだに覚えています。
中国でKFCと双璧をなす、マクドナルド(麦当劳)も躊躇のあげく、中国風おにぎり(「五色嫩鶏麦飯巻」「五色至牛麦飯巻」)や中国風どんぶり飯(「秘制鶏腿麦趣飯」「烤汁牛肉麦趣飯」)を売り出しましたが、後発だけにインパクトはいまいち。ライバルのKFCに3倍以上の差をつけられてしまいました。
■世界的にポピュラーな食用ザリガニ
今回の拙稿では、ザリガニがゲテモノであるというスタンスはとりません。なぜなら著者自身、武漢で愛食していましたし、原産地の北アメリカでは食用に漁獲され地元の名物料理とされるほか、フランス料理にも使われるなど、世界的にはザリガニ料理はポピュラーだからです。
たしかに、ザリガニの臭みは苦手な人が多いと思います、子供の頃、汚いドブ川でヨッチャンイカを餌にザリガニ釣りをしていた著者も、泥臭さを気になっていた一人です。ところが心配ご無用。30分程度アルコールに漬けて、さらに香草と茹でて臭みが消されているうえに、そもそも99%が養殖ザリガニですし、とうがらしと油で炒めてあるので、寄生虫の心配もほぼありませんでした。
老若男女が真っ赤なザリガニが20-30匹並んだ、2,000円の大皿を囲む様は壮観です。有名店になると、1日で20万元以上売り上げるそうです。大人3-4人で2-3皿はざらですから、決して安くありません。ザリガニはご馳走に位置づけられているわけです。
■2-3か月の限定販売?
昨年12月、そんなザリガニの身を使ったハンバーガーを中国KFCが売り出しました。著者の友人からの投稿写真をご覧になっていただきましょう。
さてお味はというと――。この写真を撮影、つまり試食に挑戦してくれた友人(日本人)と、WEIXIN(微信)の友人の話をまとめると、「ロッテリアのエビバーガーのシャコ風味」といった感じです。
ロッテリアのエビバーガーは歯ごたえのあるさつま揚げのような食感ですが、さすがザリガニ、身はしっかり歯ごたえがあり、噛めば噛むほど、(イセエビではなく)シャコに似た味がにじみ出てくるそうです。とはいえ、普通のハンバーガーの食べ方をすると、スパイシーなマヨネーズソースの味が濃すぎて、シャコの風味にも気づけないそう――。
次回訪中したときにチャレンジするつもりですが、この中国KFC渾身の新メニューは、2-3か月で市場から姿を消してしまいました。今(3/15)現在、中国KFCのホームページには掲載されていません。
KFC関係者によると「予想以上に売れなかった」からに尽きるそうです。そのため「春節(旧正月)前の限定メニュー」として打ち切ったとジョークを飛ばしていました。転んでもタダで起きない、たくましき商魂です。
さらに深圳の友人によると「見たことない」そうなので、武漢や寧波など地方都市限定の試験メニューだったのかもしれません。まるで、日本のご当地ポテトチップスのようなマーケティング戦略です。
「美味しいモノが売れるのではなく、売れるモノが美味しいのだ」――こんな中国的格言を、KFCのザリガニバーガーから思い出しました。
【ライター:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部) 】
プロフィール:東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学在籍後、講談社契約記者。深圳大学を経て、華南(香港)日商企業信息資訊有限公司(華南NET)設立。CEO兼編集長、プロモーション・マーケティング支援、法務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。