深圳ローカル考(6)/滴滴出行、日本進出①~配車アプリは便利?
|【ライター:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部) 】
タクシー配車サービスで世界最大手の『滴滴出行』が、いよいよ日本に進出する。日本側のパートナーは国内最大手『第一交通産業』で、早ければ2018年春にサービスを始める。<(規制で)日本企業が手をこまねいているうちに、中国企業の後手にまわった>という論調が多いなか、日刊ゲンダイ、姫田小夏氏のコラムが進出の狙いを端的に示していると思う。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/217027/2
<孫正義氏出資 中国「配車アプリ」上陸でタクシー業界恐々>
はたしてソフトバンクの目論見どおりになるのだろうか。中国と日本の実情を比較してみた。
配車アプリの中国的抑止力
中国に16年いた著者の感覚では、たしかに、配車アプリが登場してから利用環境が格段に良くなった。ただそれは、中国特有のタクシー事情が改善されただけであり、そのトンデモぶりは、日本ではまず起こりえないことばかりだった。
中国特有のタクシー事情といえば、高い料金をぼるためにメーターを倒さない(倒したがらない)正規タクシーや、運転ライセンスのまた貸し(運転手とライセンスの顔写真が別人)、乗車拒否(とくに帰りに客が捕まりにくい僻地への遠距離)などの運転手の質の問題から、偽タクシーや偽メーター、偽札、偽領収書などの行政の問題まで、枚挙に暇がない。
これらがタクシー配車アプリで激減したのは事実だ。それぞれ未だに健在の問題であるが、配車アプリを通して、運転手のスマホへ直接支払える点が画期的だった。キャシュレスだから、というわけではない。悪質な輩を見つけ出す仕組みが確立されたことが大きかった。被害に遭ったらすぐに、万が一、運転手がシラを切ったり行方不明になるなどしても、そのまま警察やタクシー会社へ通報すればよい。携帯番号の実名登録制も配車アプリの普及を後押しした(2015/9/1 から中国移動、中国聯通、中国電信が実名登録制を実施)。
ちなみに、深せんは全国的に厳しいほうで「クレームがあれば、その真偽に関わらず一定期間の業務停止」という厳しい措置が取られている。
一方で日本はというと、そんな中国的抑止力を有難がる土壌は、おかげさまでほぼ存在しない。
大型駅のタクシー乗り場。並ぶ環境はいつも過酷
配車アプリVS白タク どちらが便利?
さて、関西空港の白タク問題は記憶に新しい。配車アプリと関係なさそうだが、中国で白タクといえば、おおよそ配車アプリでタクシーが捕まらないときに、かなり重宝する移動手段である。
彼らは――たとえば、終電直後の駅や遅延便到着直後の空港、通勤ラッシュ時、タクシー運転手のシフト交替時間、突然の雷雨が降り始めた夕方等など――場所や区間、時間帯による“売り手市場”のタイミングで、どこからともなく湧いて出てくる。
正規タクシーも運転手の一存で白タクになる
もちろん客の弱みにつけ込む売り手市場なのだから、正規のタクシー料金より割高だ。ところが関空の白タクは「格安料金」という理由で商売が成り立っている。
彼らは関空の白タクは「職質にあったら『友人です』と答えてください」と訪日客に言い含めておくという。安さが売りだが、れっきとした闇営業。SNS等である程度客筋を掴んだら、あとは口コミ。「(目的地に)到着する前に先に支払いをしてください」と現金の受け渡し現場を抑えられないよう、日本の警察の目を盗んでいる。
ようは実入りのいい小遣い稼ぎに過ぎず、姫田氏のレポートにあるような「顧客データ云々」のような壮大な計画があるわけもない。とはいっても、日本の行政が手をこまねいているうちは、白タクは重宝されるし、インバウンド需要も中国人どうしで喰い合うだろう。まあ白タクが成田空港や羽田空港に急増したとしても、中国の滴滴出行ではなく、日本のソフトバンクのほうが頭を抱えるだけだが……。
(「滴滴出行、日本進出②~キャッシュレスの日中実情」に続く)