深圳“テック外”市場動向(2)/近ごろ落ち目のカルフール(家乐福)中編

深圳現地の法人を17年間経営していた著者には、最近の深センブームに感慨深いものがあります。じつは深圳でも地元民が幅を利かせています。味方にすれば心強い存在です。そのためには、深圳という街をいろいろな側面から知っておきたいものです。

この拙稿『深圳“テック外”市場動向』では、株式会社TNCリサーチ&コンサルティング様の協力を得ながら、“テクノロジー関連以外”の深圳をよく知るためのマーケット分析をお伝えいたします。

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2005年ぐらいまでは、深圳でいちばん勢いがあった外資系スーパーマーケットでした。カルフールは“大型店舗”という概念を中国の小売業界に持ち込み、これが大型スーパーのビジネスモデルになりました。

さらに、サプライヤーから入場料を徴収したり、代金支払いを引き延ばすなどして、事業を拡大してきた“カルフール様々商法”は、とくにB2C製品を取り扱っている方であればよくご存じのことかと思います。ところが前編でお伝えしたとおり最近は凋落気味です。

いったい、なぜでしょうか? 凋落した理由を6つほど並べてみました。

 

[1]「10%」のせめぎあい

カルフールの入場料は年々上昇し、サプライヤーの不満が大きく募りました。サプライヤーとしてはこの分をカバーしないと儲けが出てきません。

2010年末にカンシーフ(康師傅)は「商品価格を10%引き上げたい」と申し入れしたのですが、カルフールはこれを拒否。これに対してカンシーフは全国のカルフールに対して商品供給をストップするという措置を取りました。こうした思い切った判断は、商品力があればこそできる対応です。

とにかく同じようなきな臭い話が毎年のように出てきて、なには日系企業でも同じような話がありました。入場料を徴収するのはスタンダードなビジネスモデルなのです。

そして、著者が注目したいのは「10%」という数字です。カルフールは「入場料」という名目ですが、いろんな名目にかこつけて、自社利益を確保するのはビジネスの基本です。そんな名目にこだわらず、先払いであろうが後払いであろうが、家賃に上乗せされようが、担当者に袖の下を渡そうが、あらゆるせめぎ合いを繰り広げてきたカンシーフが「100円のものを110円で売れないかぎり、商品を並べるメリットはない」と判断したのは、カルフールに対して強烈なカウンターパンチになったと思います。

 

[2]ネット販売~中国ならではの優位性

実店舗に代わるものといえばネット販売です。サプライヤーもネット販売で販売すると消費者からの反応も早く、情報拡散も期待され、コストも大型スーパーに出すよりも少なくて済むという時代になりました。

もちろん、ネット販売だと実際に手に取ってみたり感じたりすることができないというデメリットはあります。売り場としてはここをセールスポイントにしていくべきでしょうし、実際に手に取り目にしてというのは、商品購入にあたって大きな要素ではあるでしょう。

とはいえ中国のリアル店舗には、中国ならではのリスク要素があいかわらず存在しています。在庫管理や店舗保全、接客など、すべて“人”がやることであるがゆえに、ヒューマンエラーというより、ヒューマン“トラブル”やヒューマン“ハラスメント”が常に経営者を悩ませることになるからです。

「こんなものまでネットで売っている!?」「ネットでこんなもの売っていいのか!?」というありとあらゆる商品がネットで入手できるのは、この中国ならではの人的リスクも原因の一つであるわけです。

[3]購入チャネルの拡大

カルフールで輸入品を購入するという消費者も少なくありませんでした。朝食のシリアルやフレッシュミルク、バターなどの乳製品など、著者も以前はだいぶ重宝していました。

ところが今は、カルフールでなくても購入できる場所が増えてきました。もちろんネット経由でも購入できます。輸入品はカルフール以外でも入手できるし、ニセモノに注意さえすれば価格の比較すら容易にできます。

また生鮮品も、今では盒馬や永輝で買えばいいという時代になってきたのです。

このように、消費者にとって購入場所の選択肢が増えてきたことなどもあり、大型スーパーの売上はどんどん厳しくなってきています。大型スーパーがしんどくなってきているのは日本でも同じですよね。

 

<中編>では、カルフールが落ち目になってしまった理由6つのうち3つを紹介しました。どれもカルフールが先駆者として中国に持ち込んだ“武器”だったのですが、あっというまに陳腐化してしまったわけですね。

残す3つの理由は、<後編>でご紹介させていただきます。

 

【ライター:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部) 】

加藤康夫:華南NET代表、東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社契約記者。深圳大学留学を経て、華南(香港)日商企業信息資訊有限公司(華南NET)設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「KANAN MONTHLY」発行。プロモーション・マーケティング支援、法務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。

【協力:(株)TNCリサーチ&コンサルティング(代表・呉明憲)東京&上海をベースに活動する中国ビジネス専門コンサルティング会社。事業内容は、中国投資アドバイザリー、経営コンサルティング、市場調査・マーケティング、M&A、販路・仕入先開拓、顧問契約など。http://tnc-cn.com

 

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