ハイテクすぎる中国(深セン)のシェアオフィス【取材記事】
|中国で急速に発展したシェアリングIoT自転車サービスを始め、カーシェア、シェアオフィスなど、シリコンバレーから生まれたシェアリングエコノミーのビジネスモデルが中国で活況だ。
クラウドファンデイングの熱が冷めつつある中国だが、シェアリングエコノミーについては、まだまだ資金調達がしやすく、産業全体で見ると数年で1兆円以上の調達を行ったことになる。
このようなビジネスモデルは政府も支援しており、有利な政策が次々と発表されているようだ。特に政府公認の「シェアリングスペース」は4,000カ所を超えている。
ベンチャー企業の孵化装置と言われるシェアオフィスのサービスも頻繁に出てきており、安価なわりにハイクオリティの環境とサービスを提供することを売りにし、中国の若い創業者を引きつけている。
実際のところ中国のシェアオフィスサービスは魅力的なのだろうか。
当メディアの現地記者であるMurraが、深センでわずか二年の間に8拠点にまで拡大した「シンプリーワーク」という会社を訪ね、この会社の責任者に裏語を聞かせてもらった。
エモーションはインスピレーションの源である。ここは温室か?それとも戦場か?
海外から帰国した数人の若者たちが創業した会社「シンプリーワーク」の一人であるシュンレイさんは、その理念を教えてくれた。
”起業家にとって家のような存在で、ここにいるみんなが家族のように助け合い、支え合えるようなコミュニティを作ろうと思っています。 同じ創業者同士である我々だからこそ、起業の困難が理解でき、創業者の本音が聞けるので、心を温めるようなオフィスが作れたらと思っています。”
社員募集、来客受付、コンサルティング、荷物受け取り、食事の案内までシェアオフィスの管理者がやってくれるようだ。
通常であればオフィスの物件選びや、リフォームなど、手間と費用がかかる創業であるが、それらの手間とコストを省いてすぐに事業を開始できるシェアオフィスは、正に夢を孵化する温室のようだと言われている。
シュンレイさんは、深センの南山というエリアにあるこの施設を案内してくれた。
エレベーターをあがりエントランスに入ると、会社のロビーは青い海に囲まれたような風景が広がり、マスコットキャラクターのクジラが挨拶をするかのように噴水して出迎える。
この白いクジラの姿はオフィスのあちこちに現れ、なぜか落ち着いた気持ちにさせてもらえる。
なぜかこのオフィスで働く人は若いイケメンや知的に見える女性が多い。
実はこの施設、顔認識システムが設置されているので、鍵やカードは必要なく、AIが利用者の顔を認識し開錠してくれるという、まさにハイテクなシェアオフィスなのだ。
もしかしたら、これがきっかけで身なりも意識するようになる、ということなのだろうか?
シェアオフィスのサービス内容としては、もちろん個室を借りることもできるが、更にお手軽に席のみを借りるなど、いくつかのメニューがあり、最低毎月600元(約9700円)さえ払えば、共有の会議室や、防音効果抜群の通話ルームなども使える。
経費が限られているベンチャー企業にとっては魅力的な料金設定である。
それに、食堂では栄養のバランスを考えたコストパフォーマンスの高い食事を提供しており、一日三食に対応している。無料のジムとサウナもあり、休憩室や喫煙室も完備し、身も心もリフレッシュできる環境が揃っているのだ。
創業者の天国と呼ばれているシェアオフィスの魅力は、安価な家賃、簡単な手続きや便利で働きやすい環境などだけではなく、業界を越えて集まってきた多数の起業家がともに頑張っているこの雰囲気が気に入られているようだ。
一人で頑張るよりも、コミュニケーションの機会を増やし、アライアンスであったり、コンセプトチェンジという選択肢も広がる。
「シェアオフィスで仕事と人生のパートナーができた」というお目出たい話もよくあることだ。仕事、恋、ソーシャル活動など、多くの出会いの場を提供してくれるサービスでもある。
苦難を乗り越え急拡大
このシェアオフィスを始めた当初は利用者が少なく、想定外のトラブルが頻発していたようだが、ひとつひとつのトラブルに対して丁寧に取り組み解決していったことによって、それがノウハウとなり、今ではほとんどトラブルは無い。
シュンレイさんは、つい最近の出来事を話してくれた。
「自由作家のAさんはテーブルを借りる形で普段一人で作業をしています。 ある日、締め切りが2時間後だというのに、パソコンが故障して起動できなくなってしまいました。 そこで、シェアオフィス利用者のチャットグループに声をかけたところ、間もなく近くにいた若い男性が来てパソコンを直してくれました。このような助け合いの事例は数えきれないほどあります。」
様々な雰囲気の会社が同居し、多種多様な人の観念がぶつかり合い、互いに刺激になり、成長していくことは、正に大海原を背景とした「シンプリーワーク」の理念の通りだ。
中国には、“海纳百川,有容乃大”(容量があってこそ海になれる)ということわざがある。
どんな川でも受け入れる海のように、自由に活躍できる環境を作ることを目指しているという。一方、この雰囲気に育てられたベンチャー企業にとっても、独断と偏見なしに、それぞれのイノベーションアイディアが出しやすい開放的な会社理念を築くのに絶好の場所だと思われている。
オフィスを見守るカワイイ応援者
これほどまでに魅力的な「シンプリーワーク」のシェアオフィスには、更にもうひとつのサプライズがある。
それは犬のブシューと猫のアイティン。定期的に握手会も行っており、ネット上でもかなりのファンを持つ人気者のようだ。
利用者も自由にペットを連れてくることを許可されていて、動物たちが遊んだり寝たりする姿を見ることで、ストレスも解消できる気がする。
シェアオフィスで共に奮闘していこう
起業とは常にリスクと向き合い、既存の競合と戦い続ける生存競争だ。
「注文にこたえるのは一流の仕事。ベストを尽くすのは二流の仕事。我々のような三流は、明るく楽しくお仕事をすればいいの。そして、志のある三流は、四流だからね。」
これは中国で人気を博した日本ドラマ「カルテット」の仕事の定義。今ここにいる若者たちは四流が多いかもしれないが、一流であろうが四流であろうが、その多様性を見つけてここで輝くことができるのは、このシェアオフィスの最大の魅力ではないだろうか。
シンプリーワーク以外にも、実用性、環境、雰囲気など様々な特色を持ったシェアオフィスが、次々と深センに生まれてきている。それぞれ運営理念が違うものの、人間性や個性を重視しながら、無限の可能性を認め、応援するというところは共通している。
新しいもの(ベンチャー)を受け入れてくれる暖かさ、ここで築ける人間関係と学びが未来の成功に近づく第一歩だ。中国のベンチャーブームが急速に拡大していること、クリエイティブな起業家がここ深センで急増していることに気付かされる。
記者: Murra(株式会社ホワイトホール)