深センで起業した日本人【⑤不死鳥の如く立ち上がる】

深セン経済情報2周年特集:『深圳に感謝し、13年を振り返る。』

白井りょう(株式会社ホワイトホール 代表取締役)

2006年に中国の深セン市で起業、貿易とコンサルティングからスタートし、数々の日中スタートアップを立ち上げる。深センのビジネス情報を現地から配信する「深セン経済情報」を運営。視察・研修ツアーや日中間のアクセラレーターなどを行う。
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気がついたらまた深センにいました。
時代は急激に変わり、日本はGDP2位の座を中国に譲りました。
世界の工場だった中国は、世界のマーケットに変化していきます。

 

深センに来たばかりの頃は、インフラも人も全く整っておらず、とんでもないカオスな状況にあり、そこに魅力を感じたものでしたが、北京オリンピック以降の中国の発展は凄まじいものを感じていました。
2015年頃から、誰も知らなかった「深セン」という街が、徐々に注目を浴びるようになってきました。そしてまたこの地で、新たなチャレンジを始めることになります。

白井

ある日、上海の友達(中国人)と一緒に食事をしていたときの話です。
「今年の年末はどこで過ごすの?」と聞かれたので、「新潟の実家に帰省して年越しするよ」と言ったのですが、「じゃあオレも行くよ」という流れになりました。。。

実際に年末になると彼は私の実家に遊びに来て年越しをしました。
私は中国の文化に慣れてはいるものの、本当に来たのでそれなりにビックリしました。しかし、それ以上にビックリしていたのは私の両親でした。

彼は日本語が喋れないので私が通訳をするのですが、いきなり外国人が来て家で一緒にごはんを食べるという状況には、さすがに慌てていました。

日本やアメリカでは、仕事とプライベートを完全に別けますが、中国では「友達を作り信頼関係を築いた上にビジネスを乗せていく」という流れがあります。華僑が世界中で繁栄しているのもこのプロセスが基盤となっています。

そして、遠慮なく友達を頼り、様々なお願い事をします。
頼まれごとを真面目に受け止めて対応しようとするのが日本人。責任感が生まれてしまい、このような関係はストレスになってしまうため、友達は友達、仕事は仕事と割り切らなければなりません。
しかし、中国人の場合は友達に頼まれごとをされても、対応できないことに関してはスルーします。もちろん、できることに関しては対応します。相手も例え頼みごとをスルーされても全く気にしません。
お願い事を遠慮なく投げ続け、スルーされても気にしない。それをお互いで繰り返す。この関係がスピード感を生むのです。

もちろん、人それぞれなので、全てがこの限りではありませんが。

例えば、複数人にお願い事をして、スルーする人と対応できる人がいたら、対応できる人の中で総合的に考えて一番条件の良い人を選びます。もちろん、この時点で気分を害する人はいませんので、結果として最適なマッチングを最短時間で生むことができ、とても合理的です。

このようなサイクルがビジネスの環境でも繰り広げられています。

 

私は、この中国式ビジネスのプロセスを取り入れることにしました。

 

WeChatは便利なツールです。
友達に友達を紹介してもらう際に「名刺機能」を使います。
私も今までの中国人コミュニティをフル活用し、お願い事を乱発しました。

 

「ECで成功している人を紹介してほしい」

「日本の不動産を買いたい人はいますか?」

「日本で働きたい人がいたら私に声をかけてください」

「ベンチャー企業の創業者に会いたい」 などなど。。。

 

もちろん無視されても気にしません。
今まで散々、中国人のお願い事にも真面目に対応してきましたので、今度は私がお願いする番です。

この活動でWeChatの中国人コミュニティを一気に300人増やしました。

できるだけ直接会ってお話をしていましたが、こちらのお願いをするだけではなく、相手の相談にものるように心がけていました。その結果、多くの中国人にインタビューができて、ニーズを掴むことができたり、トレンドを確認でき、「これは価値になる」と気づいたのです。

 

情報過多の現代社会で、本当に必要とされている情報は何か?

メディアが乱立し、多くのコンテンツの中から本当に有益な情報を見つけ出すのに疲弊してしまう。本当の情報とは、現地に根ざしてリアルなコミュニティからいただくものであり、その情報こそが価値になる。

 

『我々の強みとは、現地にいることではないか?』

 

そして、深センのリアルな情報を配信するためのオウンドメディア「深セン経済情報」を立ち上げました。
発展していく都市を形造る背景の一つ一つを、現地からリアルに発信することで、価値のある情報を取ってもらうことができる。

「この情報を使って、新しい価値を生み出す日本人が一人でも多く出て来てほしい。」

そんな願いで、できるだけ自分たちの目で情報を集め、記事を書き、現地をリポートしていきました。

本当のことを言うと、初めは周りに反対されました。もちろんですが、記事を作るために時間を取られる一方で、まったくお金にならないからです。しかし、この活動は必ず結果を出すと信じていたので、どうしても続けたいことを伝え、みんなも頑張ってくれていました。
(写真は当時の中国チーム)

中国チーム

正直言って、私を始め社内の誰もがメディアのことなど少しもわかっていませんでしたし、ITやテクノロジー関連の知識もありませんでした。しかし、ベンチャー企業にインタビューをしたり、色々な情報を集めて編集したりしているうちに、リテラシーが付いてきました。
最初の半年間は、ほとんど誰にも見てもらえず、アクセスの分析をしてみると1日5人の読者のうち、3人はトップページを見てすぐに去っていくという状況でした。

その後も盲目的に情報を集めては配信することを繰り返していましたが、読者の中から「現地を実際に見たい」という方が現れるようになってきました。

 

我々のメディアを見て、日本から深センを見にきてくれる方がいるということで、とても嬉しく思ったことを覚えています。

その方はお一人で来られましたが、こちらは社員4人で深セン市内を案内して周りました。

猛スピードで知識をつけてきましたが、それを全てアウトプットするかのようにその方に提供したことで、心から感謝されました。

 

「努力を重ねて積み上げた知識を、惜しげもなく提供してくれて嬉しかったです。」

 

このような言葉をいただき、我々もとても嬉しく思いました。
その後、深センを周りながらその発展の背景や、10年間のトレンドの移り変わりなどを伝えながら、深センで視察や研修を行う独自プログラムを作り、日本企業の方々に参加いただいています。

こうして、尖閣のときに怪しいコンサルティング会社と呼ばれた会社は、一気に今をときめくトレンディな会社というイメージに変わっていきました。

 

今、日本は海外とのパイプを作っていくことが生き残る道です。

今後、ダイバーシティを意識しながら自分を変化させていくことが問われていますので、ぜひとも海外へ繰り出して多くの気づきを得てほしいと思っています。

 

 

次回をお楽しみに【エピソード⑥世界に羽ばたけ日本!】

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