深圳ローカル考(16)/品質が上がった?ブランド模倣品
|いつのまにか中国では、「山寨文化」(パクリ文化)という言葉に、プラスのイメージが強く含まれています。好きこそモノの上手なれならぬ、マネこそモノの上手なれ――そんな考え方は、そういえばほぼ全員の中国人ビジネスマンに共通しているし、マネするしマネされるのを前提とした行動規範の源泉だと思います。
ということで、あいかわらず模倣品が幅を効かせる有名スポットを巡ってきました。
訪れた場所は、深圳の玄関口である羅湖イミグレと連なる『羅湖商業城』。香港からの越境バカンス客目当ての大きなショッピングモールです。そのモールの主力商品が、一流ブランドの模倣品です。立地条件がよろしいスポットに、商業道徳がよろしくないマーケットがあいかわらず健在中です。
■「二度と来るな!」で交渉成功
著者馴染みの店舗の女店主に会いに行きました。彼女は潮州人。ご主人と10年、一流ブランドの衣類や時計のニセモノやコピー商品まみれの商売をしてきました。
近所のアパートに住みながら、稼いだお金で育てた子供は2人。長男は今夏に小学生になります(一般的に中国は8月が新学期)。
ちなみに昔も今も、羅湖商業城では、潮汕人たちが幅を効かせています。潮汕人といえば、中国のユダヤ人とも称される商売人の血筋です。陳列の値付けは、著者の感覚で8~10倍以上は当たり前。したがって、値引き交渉が必須となります。
本サイトをご覧になっている方々には、それぞれ価格交渉の極意をお持ちでしょうから詳細は省きます。
交渉の成否を表す基準だけを紹介しますと、「もう二度と来るな!」とあと味悪い捨て言葉を浴びられたら立派なものです。おたがいコミュニケーションが不便な状況で、30分以上も交渉し、なんとか売買成立し、別れ際にスポーツマンシップよろしく、「また来てください♪」と名刺を渡され満足している方は、まだまだ値切りが甘いと反省しましょう。
■質が良い商品をいち早く調達
著者が深センに住み始めた2000年頃に歓迎された通貨は香港ドル。100HKDで120RMBほどの換算レートでした。今やレートは逆になり、2017年のGDPは深センが香港を追い抜くと言われています。
開店当時の2006年と比べると、家賃は半分以下になり1.1万元(日本円で15万円/10平方メートル)。顧客比率は、香港人:観光客:大陸人=3:5:2と「ほぼ変わらず」(前出女店主*以下同)、売上げは半分以下に落ち込んでいます。それでも、1か月・4万元以上売り上げないと一家4人で生活できないので、微信(WECHAT)で常連客の囲い込みに精を出しています。
その微信の内容は、パクリ商品の紹介です。1週間に3-4回、7-8点以上、コンスタントにアップデートを続けています。単なる紹介だという体裁を繕うために定価は明記していませんが、ほぼ最新モデルか、(ホンモノには存在しない)オリジナルモデルが並びます。「“本家”が発表する前に、同じモデルが調達できる」と自慢げに教えてくれました。
とくにシャツやトレーナー、ズボンなどの衣類は「ここ数年で、品質がとても良くなった」ので、国産ブランドを買うよりコスパが良く、家族そろって愛着しているそうです。
なるほど、ホンモノを研究しながら真似ているうちに、品質が上がってしまった――この台詞、「山寨文化」のシーンではよく耳にします。まさか、ブランド模倣品の分野でも聞くとは想像していませんでした。
とはいえ、斜陽産業であるのは事実です。当局の取締りもよりいっそう厳しくなるでしょう。「旦那の仕事が見つかったら、店(の経営権)を転売する」と女性店主。今度著者が訪れるときには、別のオーナーになっているかもしれません。こうして昔からの“名所”があっけなく消えて無くなるのも、深圳の特色なのです。
【ライター:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部) 】
加藤康夫
華南NET代表、東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社 契約記者。深圳大学(中国広東)留学を経て華南(香港)日商企業信息資訊有限公司設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「Kananmonthly」発行。プロモーション・マーケティング支援、法律実務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。