深圳“テック外”市場動向(1)/近ごろ落ち目のカルフール(家乐福)前編

自ら設立した現地法人で、17年間、陣頭指揮をとっていた著者には、最近の深圳ブームに感慨深いものがあります。進出企業が増えれば参入ハードルは低くなりがちですが、進出後のリスクは必ずしも小さくなりません。ブームの盛り上がりを商機と捉え、進出後にあれやこれやで運営コストを上げるのは、中国の十八番だからです。

中国はどの都市に行っても、地元民が幅を利かせています。味方にすれば心強い存在です。そのためには、深圳という街をいろいろな側面から知っておきたいものです。

そこで、この拙稿『深圳“テック外”市場動向』では、株式会社TNCリサーチ&コンサルティング様の協力を得ながら、“テクノロジー関連以外”の深圳をよく知るためのマーケット分析をお伝えいたします。

 

■かつての中国カルフール

深圳にはカルフールが16店舗あります。

カルフールは、世界各地にスーパーマーケットチェーンを展開するフランスの小売企業です。中国語では「家楽福」と書きます。

2005年ぐらいまでは、深圳でいちばん勢いがあった外資系スーパーマーケットでした。

現地化も巧みで、給料もけた違いでした。某日系企業から転職した20代後半の女性は「5倍」に増えていました。まあ、中国人の場合、手取り全額を「給料扱い」と言いたがるので、基本給以外の部分がいくら占めていたのか分

かりませんが……。給料が高い分、目標管理もシビアだったらしく、前出「5倍」の女性は、2年で契約を切られ、某日系同業に転職したそうです。

「もう十分です。もうじき結婚するから、日系でのんびり仕事したい」という5倍女性の本音を今でも忘れられません。厳しいノルマ管理が「十分」なのか、袖の下(賄賂)で「十分」に潤ったのか、いずれにせよ「十分」を目指すためのプレッシャーとはオサラバしたかったのでしょう。

著者には少なくとも深圳では巧みに業績を伸ばすお手本のような外資系企業だったのですが、雲行きが危うくなってきたのは2008年です。チベット騒動を武力鎮圧した中国を非難したフランスの企業ということで、カルフール不買運動に遭ったときが境目だったのではないでしょうか。

それからというもの、たとえば、新労働法や最低賃金、労働組合など、外資系企業が遵守しなければならない(とされる)トピックが発布されるたびに、カルフールは外資系企業代表のように見なされて、模範的な振るまいを必要以上に求められていたように見えていました。

 

■カルフールの今

最近は、実際にカルフールの中国事業売却の話が何年も前からメディアを騒がせています。

まず業績推移を見ていましょう。まずは全世界ベースでの売上高推移です。2015年に盛り返したものの、2016年に微減しています。

次に、中国の売上高推移です。2014年第2四半期以降ずっとマイナスとなっています。

業界シェアも落としてきています。少し前の数値ですが、トップは高鑫零售(大潤発)で、カルフールのシェアはその半分にもなりません。

業界トップでありながら、あまりなじみのない永輝超市、いったいどんな会社なのでしょうか。

カルフールの中国事業は上述のように不振基調にあり、売却するとかテコ入れしないといけなかったわけですが、おそらくアリババやテンセントに話を持ち掛けたのではないかとみられています。最初にアリババに話を持ち掛けたものの、アリババは高鑫零售に出資し、次にテンセントに話を持ち掛け、結局テンセントと永輝超市からの出資を受け入れることになったわけであります。

ちなみにアリババとテンセントは実店舗に対する出資を行っています。アメリカではアマゾンがスーパーを買収していますが、中国でも同じような動きがみられます。永輝超市はテンセント系、高鑫零售や最近話題の盒馬鮮生はアリババ系になりますね。

 

では、なぜ中国カルフールはこのような状況になってしまったのでしょうか。

続きは次回にします。

 

【ライター:加藤康夫 東方昆論法律事務所パラリーガル、(株)コミュニケーションデザイン海外事業部。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社契約記者。深圳大学留学を経て、華南NET設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌を16年間発行。プロモーション・マーケティング支援、法務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。】

【協力:(株)TNCリサーチ&コンサルティング(代表・呉明憲)東京&上海をベースに活動する中国ビジネス専門コンサルティング会社。事業内容は、中国投資アドバイザリー、経営コンサルティング、市場調査・マーケティング、M&A、販路・仕入先開拓、顧問契約など。http://tnc-cn.com

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