6年で1000店舗以上、深センでもよく見かける「銭大媽」とは
|現在、中国ではニューリテール(新小売)市場の争いが激化しており、生鮮食品市場にも大きな影響が出ている。統計によると、2018年の国内生鮮食品市場の規模は1.91兆元(約28.8兆円)に達し、成長率も6.9%と伸びている。2013年以降は6%以上の成長率を維持しており、2020年には2.31兆元(約34.8兆円)に達するとも言われている。そうした中、華南地区を中心に急成長している「銭大媽」が注目を集めている。
「銭大媽」は“宵越しの肉は販売しない”というスローガンを大きく掲げ、華南地区の生鮮食品市場に一気に拡大した。現在の店舗数はすでに1000店を超えている。
深センで暮らす筆者の感覚では、2018年後半から深センで見かけるようになり、深センでは今年に入ってから店舗数が一気に増加したといった雰囲気である。2018年7月には「JD.com(京東)」から出資を受け、投資ラウンドのシリーズCで時価総額が6億元(約100億円)を突破した、とも言われている。本社は深センの隣、広州市にある。
市場のターゲットを正確に狙い、それに対して有効な販売手段を取ることが安定した利益を生み出すことができるわけだが、「銭大媽」はそれらに対して特徴的なアプローチを取っている。「銭大媽」が目指しているのは地域コミュニティにある生鮮食品店で、主な取り扱い商品は肉類、野菜類、加工品類、水産物をメインとする新鮮な生鮮品。店内には約200〜300種類の商品が並べられている。
“宵越しの肉は販売しない”というサービスを保証するため、「銭大媽」はゼロ在庫戦略、つまり夜7時以降から割引を始め、その日のうちに売り切る、という独特な販売方法を取っている。実際に店舗に行くと見ることができるが、7時以降、毎時間ごとに割引率は高まり、最後は無料になる。いやでも在庫がなくなる仕組みだ。
ちなみに、筆者がよく訪れる店は無料になるまで営業しているところは見たことがない。割引開始時にはほとんどの商品が売れ、割引が始まって間もなくして在庫一掃となるイメージだ。
また、ゼロ在庫と共に新鮮さもウリのひとつだ。商品の仕入れから配送、店頭に並ぶまで12時間以内に行えるように、倉庫や配送システムを自社で行っている。例えば水産物を例に挙げると、基本的には毎日23時〜24時に配送センターに集められ、そこで2時間以内に加工し、早朝5時〜6時くらいには各店舗に配送され、その日の内にすべてを売り切る仕組みになっている。
こうして見ると「利益の確保は大丈夫か?」と考える人も多いと思うが、彼らは生鮮食品サービスプラットフォーム、加盟店ネットワーク、商品の資源、ブランド管理、運営技術のサポート等も行い、一定の加盟費や配送差額等で利益を確保している。また、加盟店も続々と増えているため、大量仕入れによるコストダウンもでき、そこで利益を得られるようにもなっている。
プラットフォーム化した経営を通して、「銭大媽」は利益確保を保証し、加盟店および消費者に恩恵を与える仕組みを作り上げた。
数多くの大手がニューリテールに参入してくる中、競争は日に日に激化している。アリババのO2Oスーパー「盒馬鲜生」やテンセントが出資しているスーパー「超級無種」、ほかにも「京東到家」や「蘇寧小店」等のオンライン型がある中、オフライン型の「銭大媽」は新スタイルとインパクトを持って華南地区を中心に急成長している。今後大手に対してどのような戦略で対抗していくのか、楽しみだ。
関連リンク
http://www.dyhjw.com/gold/20190809-27632.html
http://www.solome.com.cn/module/3?subId=15&contentId=208
記者:佐々木英之
ホワイトホール深セン事務所にて10年間の中国ビジネス経験。
日本に出張すると数日で深センに帰りたくなるという「深セン通」である。