深圳“テック外”市場動向(５)／中国アディダスの元幹部社員エピソード[後編]

この連載では、株式会社ＴＮＣリサーチ＆コンサルティングの協力を得ながら、“テクノロジー関連以外”の深圳という街をよく知るためのマーケット分析をお伝えいたします。

「中国における外資スポーツ屋外ブランド」第2位にランクする中国アディダス(adidas／阿迪达斯)の元幹部社員が、著者の会社で働いていたことがあります。中国アディダスも中国に進出した外資企業、アウェイの中国大陸で堅調な理由が、その元幹部社員から伺えました。

■28歳で12店舗を管理

前編でお伝えした通り、中国人や中国企業を――「環境や組織の原因で、約束が守れない文化が常態化している」とめった斬りにする女性でしたが、いわゆる“外資かぶれ”しているわけでもありませんでした。

中国アディダスには入社時に日本の国家公務員のような＜キャリア／ノンキャリ＞の区別があり、店舗で働くスタッフはすべてノンキャリで、中国アディダス本体の社員ではなく、某都市（当時）の人材紹介会社からの派遣扱い。ほぼ一律の基本給（2000元台）のもと、役職給や残業代、季節手当などが付く給与体系になっていました。なおかつ、社会保険などの福利厚生は、キャリア正社員のそれと雲泥の差でした。

その一方で、キャリア入社→正社員の彼女は、各店舗（12店舗＊彼女の場合）の売り上げに責任をもたなければなりません。本社が定めたトレーニングを施し、各店舗スタッフのモチベーションを高く維持するために、毎日店舗を訪れ、飴と鞭を使い分けながら叱咤激励し続けていました。

「私がもらっている1/5に満たない基本給と、読んでも理解できないのではなく理解してもどうにもならない不公平な福利厚生制度を受け入れて、それでも頑張っている店舗スタッフのため」と、月決算時には2－3日連続の午前様を厭わず、ハードワークをこなしていました。

■中国アディダス直伝、大陸人の管理方法

著者の会社でも、中国アディダス元幹部のスキルを大いに発揮してくれました。とくに社員への指導ぶりは秀逸で、とにかく粘り強い。能力不足ゆえに「できない」と烙印を押すのではなく、「自分の指導が至らない」とトレーニングに努めるのです。

そんな彼女の口癖は、「中国人は馬鹿ではない。雇い主の利己主義をすぐ見抜く。賢いから、見抜いた素振りも見せない。いかに就業時間を楽に過ごすか考え抜いて、あらゆる手段を尽くす」。

そして、管理者のいちばん初めの仕事は、「サボる手段がすべて無駄だと分からせること。そのためには、サボりの一発目を必ず発見し、まず見逃し、二発目にキツイお灸をすえること」と力説していました。

サボり発覚の一発目に見逃すのは、彼女自身が外国人上司の言いなりではなく、ある程度の決裁権を有した「同朋（大陸人）」だと分からせるため。二発目にお灸をすえるときは「2回目なので庇いきれなかった。ゴメンナサイ」と言い添える――これが中国アディダス流でした。

■コピー商品が出回らないモノとは？

拙稿を書くにあたり、他ブランドを調べていたら、妙な現象に気づきました。

＜nike＞で検索入力したときに自動で表示されるリストの画面です。「官网」とは公式サイトという意味です。「nike官网」と「nike香港官网」と区別されて表示されています。なぜわざわざ中国本土の人が、香港の公式サイトを見たがるのでしょうか……。

こちらの写真は、中国アディダスの発行している正規店の証明書です。

勘のいい読者の方はお気づきでしょう、やはり大陸特有のニセモノ問題は深刻であるようです。まだまだ中国では正規店のすぐ近所で、同じブランドのニセモノが堂々と売られていますから……。

このあたり、中国アディダスの元幹部社員はどう対処してきたのかと聞いてみると、「優秀なスタッフはコピーできない」と明確なお答え。彼女自身の仕事に誇りを持っていることがうかがえました。

拙稿前編で紹介したランキングでは、“有名税”的に嫌いなブランド第1位でしたが、好きでは第3位のニューバランスを引き離し、堂々の第2位。中国アディダスの強さは、社内にいる人材によって創られています。そんな貴重なエピソードを紹介させていただきました。

【文：加藤康夫（東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部） 】

華南NET代表。東京外国語大学（外国語学部）在籍後、講談社契約記者、深圳大学留学を経て、華南(香港)日商企業信息資訊有限公司（華南ＮＥＴ）設立。ＣＥＯ兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「KANAN MONTHLY」発行。プロモーション・マーケティング支援、法務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。

【協力：(株)ＴＮＣリサーチ＆コンサルティング（代表・呉明憲）東京＆上海をベースに活動する中国ビジネス専門コンサルティング会社。事業内容は、中国投資アドバイザリー、経営コンサルティング、市場調査・マーケティング、Ｍ＆Ａ、販路・仕入先開拓、顧問契約など。http://tnc-cn.com 】