深セン“テック外”市場動向(6)/配車アプリドライバーの摘発

この連載は、株式会社TNCリサーチ&コンサルティングの協力を得ながら、“テクノロジー関連以外”の深センという街をよく知るためのマーケット情報をお伝えしています。

今回は、「キャッシュレス社会化」で中国が得た便利さが、厳しく管理することで成り立っている社会だと再認識されたニュースをお届けします。

さて、配車アプリの使い勝手が日本より格段上の中国ですが、その出始めの頃は、タクシーのほうが安心・安全だという人も多かったんです。【白タク<配車アプリ<タクシー】といった構図でしたが、配車アプリが普及するにつれ、その利便性が際立つようになりました。

そもそも配車アプリに登録しているドライバーってどういう要件をクリアしているのでしょうか。これに関する通達は出ておりまして、その通達によりますと、配車アプリのドライバーとして認められる要件としては、以下の4つがあります。

・相応する車型の免許証を取得して3年以上の運転経験があること

・交通事故犯罪、危険運転犯罪記録がなく、麻薬吸引記録がなく、飲酒運転記録がなく、最近3点数記録周期(1周期12ヶ月)以内の記録が12点未満であること

・暴力犯罪記録がないこと

・都市人民政府が規定するその他条件

これら4つの条件が必要条件として定められています。これらをクリアして初めて《網絡予約出租汽车駕駛員証》が発行されます。これとは別に車両自体も登録しておく必要があります。これらに違反した場合、ドライバーは罰金1万元、3か月の免許取り上げ、もし2回目が見つかった場合、罰金3万元と免許取り上げ6か月と厳しい罰則が定められています。

 

■配車アプリ会社にも罰金10万元

とはいうものの、ルールを守らないドライバーはやはりいるようで、4月3日午前に上海の空港や駅等の14か所で取り締まりを行ったところ、登録プラットフォームでいうと滴滴29件、美団6件、神州1件、嘀嗒1件を摘発し、プラットフォームの滴滴、美団には「運営資格を持たないドライバーまたは車両に対して求車情報提供サービスを提供」した場合に課せられる10万元の罰金が課せられました。

↑運転手を摘発した書類

↑プラットフォームに対する罰金の通知書

 

プラットフォーム側としては悪いドライバーを管理するのは大変ですが、こういう処置の繰り返しの中でルールを守らないドライバーを淘汰し、サービスの質を上げていくという姿勢の表れと言えます。

最近はけっこうな確率で、配車アプリを利用した後に、プラットフォーム会社から電話がかかってきて、「車両のナンバープレートは登録しているものと同じ番号だったか」と確認されるのですが、こうした人海戦術を駆使しながら、ルールを守らないドライバーを排除していこうとしているのでしょう。

 

■10万元は「効く」のか?

そんなとき、日本のニュースを思い出しました。

https://www.sankei.com/affairs/news/180704/afr1807040010-n1.html

白タク営業の中国人の男逮捕、警視庁 利益は約8000万円(2018.7.4産経新聞)

全国紙が一斉に報じたのですが、金額を見出しにした産経を引用してみました。

「平成27年10月ごろから営業を始め、海外のスマートフォンアプリなどの配車サービスを通じて予約を受け付け」、なんとグループ全体で約8000万円を稼いでいたそうです。

3年弱で8000万円の荒稼ぎ……。

何人でグループを構成していたかは報じられていません。ただ、これが法人だったら、3000万円近く法人税で日本に収められていたわけです。

すると、10万元、日本円で160万円そこそこの罰金って、どうなんでしょう?

華人が華人を管理する厳罰国家・シンガポールの友人に聞いてみたら、「わずかな罰金で、自浄能力に期待するなんて甘すぎる」という意見でした。

そんな彼のアイデアは以下4つ。

・むち打ちの刑よろしく、堂々とさらしものにして即刻強制送還する

・把握した違法収入全額を管理義務のある配車アプリ会社に支払わせる

(運転手の責任云々は当事者同士にやらせればよい)

・罰金の支払いが終了するまで、アプリ運用を停止する

・管理義務を怠った状態が続くようであれば、アプリ運用の免許をはく奪する

ちょっと過激するかもしれませんが、20年近くシンガポールに住んでいる友人にとっては、日本の対応は遅く、手ぬるく感じるそうです。

産経の記事では、日本で捕まった中国人は「海外のスマートフォンアプリなどの配車サービス」を利用し「香港に拠点がある会社がサイトを運営し、この会社から報酬を得ていた」そうなので、けっして小さくない規模の組織が暗躍していそうです。そんな彼らを、日本の警察はしぶとく追い続けるのでしょうか……。

とはいえ、深センのタクシーや配車アプリドライバーの質は、中国でのトップクラスだと思います。あいかわらず中国の地方都市では、空港などの公共交通ターミナルでは特に、白タクやメータを倒さないタクシー運転手が幅を利かせています。そう考えると、深センは明らかに行儀が良いし(決してひいき目ではなく)、配車アプリで呼べる車も小ぎれいですから、今のところ「10万元」でも効果が出ているのでしょう。

「キャッシュレス」にすると、かえって足が付きやすいので、現金支払いを求める悪いドライバーが即刻通報されて御用になる社会が中国に訪れるかもしれません。

 

 

【文:加藤康夫(東方昆論法律事務所/コミュニケーションデザイン海外事業部) 】

華南NET代表。東京外国語大学(外国語学部)在籍後、講談社契約記者、深圳大学留学を経て、華南(香港)日商企業信息資訊有限公司(華南NET)設立。CEO兼編集長として香港華南エリアの日本企業向け会員制ビジネス誌「KANAN MONTHLY」発行。プロモーション・マーケティング支援、法務コンサルティングを経て現職。1972年水戸生まれ。

【協力:(株)TNCリサーチ&コンサルティング(代表・呉明憲)東京&上海をベースに活動する中国ビジネス専門コンサルティング会社。事業内容は、中国投資アドバイザリー、経営コンサルティング、市場調査・マーケティング、M&A、販路・仕入先開拓、顧問契約など。http://tnc-cn.com 】

 

 

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