深圳ローカル考(21)/老舗レストランが中国的ファミレス化すると……

久しぶりに深センの羅湖駅界隈を廻ってきました。

昔も今も、香港人の行き来が多く、あいかわらず「雑然」としたエリア。その一方で、物騒さやら混沌さが薄らいでいました。その原因は、駅近辺のタクシーの乗り降りスペースが厳しく制限されたことと、地下鉄移動が市民に浸透して、人の流れの導線が固定されつつあることだと思われます。

 

辛い系が充実している広東料理店?

このエリアのシンボルマークはシャングリラホテルです。15年以上前は、外資系といえばホリディインという日本人のなかのアッパークラスの定宿で、大陸嫌いの香港在住の日本人は今でも、羅湖イミグレを越えて足を踏み入れるならここまでという境界線でもありました。

その近所に位置し、比較的清潔で、とりあえず冷房が効いているレストランというと、じつは選択肢が狭いのは、今も変わっていません。そのせいなのでしょうが、外装も内装も綺麗になり、メニューも豊富になっていました。

看板を見てみましょう。

川菜=四川料理、湖菜=湖南料理、粤菜=広東料理、海鮮=シーフード料理、面食=麺料理。

そうなんです。この店は、辛い系の料理がなぜか妙に充実している広東料理のレストランだったんです。

場所柄、香港人客が大部分を占めているので、辛い系はひかえめにしていたのですが、厨房で幅を利かせているのが経営者の親戚の四川省出身の料理人グループで、もともと深センに常住する市民といえば湖南人が半分以上を占めているため、手堅く湖南料理も出してやれ。香港人客は黙っていても来るだろう――そんな店側の意図がうかがえます。

 

 

あっぱれ!創業20年の生存スキル

冒頭で、混沌ではなく「雑然」と表現したのも、こうした店側の紆余曲折かつ深謀遠慮な意図が、改装直後の看板に見て取れたからなのです。

たしかにメニューの並びは雑然としています。でもそれなりに筋が通っているあたりは、まさに日本のファミレスと似ています。

しかも一応24時間営業です。朝方に行くとメニューが広東料理系に限定されるのは、料理人の勤務時間シフトと、客の流れに合わせているからです。

夕方に行くと、日中にあったはずの割安な定食セット(30~40元台)が注文不可になります。いや、不可というよりメニューそのものが撤収されているのですが、常連に提供してしまうあたりはご愛敬、いや、中国的フレキシビリティ。

一般的に日本人には「雑然」と映ってしまう経営スタイルでも、付近エリアで起きたレストランの栄枯盛衰を知る身としては、生存するための立派なスキルだと感心できます。こうした営みを毎日続けるのは、並大抵ではありません。

新興エリアが多い福田区とは異なり、羅湖区は今では「旧市街」という言葉が似合うエリアになりました。飲食店に限れば、香港に上場しているレストランチェーンも、日本のファーストフードチェーンも、地元権力者の子供が開いたBARも、なかなか数年続かず、ときにはオープンすらできず、投資金の回収はおろか、身ぐるみはがされ撤退していきました。創業20年のこのレストランは定点観測の価値ありだと思います。

日本でも、吉野家や松屋などが、今のような業態になっていることは、10年前に想像できた人は多くないはずです。必要こそ発明の母なんですね。

拙稿では、店名をあえて伏します。あんまり有名になると、15年来の付き合いのあるオーナー社長に迷惑がかかってしまうから。

 

【文・写真:加藤康夫(東方昆論法律事務所/華南NET代表) 】

プロフィール:東方昆論法律事務所パラリーガル、華南NET代表。東京外国語大学在籍後、講談社契約記者、深圳大学を経て、華南(香港)日商企業信息資訊有限公司(華南NET)設立。CEO兼編集長、プロモーション&マーケティング、法務コンサルティング、日本帰国後PR会社海外事業部を経て現職。1972年水戸生まれ。

 

 

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