日本ベンチャーが深センの“ワイルド・サファリ”に挑む、ピッチ大会国内予選を勝ち抜いたのは?

「ベンチャーにとって日本は“幼稚園レベル”」

2018年8月30日、渋谷EDGEof(東京都渋谷区)で「Nanshan “Entrepreneurship Star” Contest 2018 Shibuya」最終予選が開催され、日本のベンチャー&スタートアップ企業10グループが参加。9月に深セン南山区で開催予定の世界大会(決勝大会)への出場権をかけ、各々のプロジェクトをアピールした。

日本代表に選出されたエアロネクストCEOの田路氏(左から2番目)

「Nanshan “Entrepreneurship Star” Contest 2018 Shibuya」は、深セン市南山区の深圳清華大学研究院(RITS)と、その外郭団体でインターナショナルテクノロジー企業への投資を行うLeaguerXが主催するスタートアップ企業対象の国際ピッチコンテスト「Nanshan “Entrepreneurship Star” Contest」の国内予選。今年6月、一般社団法人 渋谷未来デザインとLeaguerXは双方に協力するパートナーシップに署名。同時に渋谷区と南山区が連携してイノべーションを生み出す取り組みを推進することが決定し、今大会の開催に至った。

国内予選では「成長企業グループ」と「スタートアップグループ」の2つのカテゴリーにて募集され、応募総数は100以上(企業、個人含む)。最終予選に先立って行われたオンライン予選の結果、Empath、ディライテッド 、キュレーションズ、Synamon、エアロネクスト、justInCase、Widsley、リアルワールドゲームス、クラウドリアルティ、WAmazing Inc. の10社10グループが参加することになった。なお、Empath以外はすべて「成長企業グループ」から選出されている。

審査員を務めたのは、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏、みずほ銀行 執行役員 イノベーション企画支援部長の大櫃直人氏、エッジオブ共同創業者 代表取締役 Co-CEOの小田嶋アレックス太輔氏、東京急行電鉄 事業開発室 プロジェクト推進部の加藤由将氏、LeaguerX CEOのアレックス・ワン氏の5名。渋谷区長の長谷部健氏は「今渋谷区は“ちがいを ちからに 変える街。渋谷区”という20年先の基本構想を持っています。これは多様性、ダイバーシティということを多分に意識しておりますが、多くの人が『みんなそれぞれ違うんだ』ということを意識しあいながら、その後にしっかりと調和していくーーそれが目指すべき(渋谷区の)姿であると認識しております」と区としての構想を述べた上で、「渋谷から世界へ向けて旅立つ、こうしたプレゼン大会が行われることを大変嬉しく思っております。このように海外の都市ともつながりながら、渋谷の活力を世界に発信していきたい。区としても応援していくので、みんながあっと驚くようなアイディアが今日プレゼンされることを期待しております」と挨拶した。

長谷部 渋谷区長は、渋谷をスタートアップの街として「もっと発展させたい」と希望を述べた

また、夏野氏は「僕たちここに揃っているメンバーはこういうピッチでの審査に慣れています」としながらも「実は今日のピッチが一番楽しみで来ました」と笑顔。そして「日本では今ベンチャーが非常にもてはやされていまして、資金も結構簡単に出ます。東証もマザーズも結構簡単に上場できてしまう状況なんですが、問題点はマザーズに上場した企業の8割が初値を超えられないままなんです」と問題点を指摘し、「つまり、ベンチャーにとって日本という国は“幼稚園レベル”。申し訳ないけど。ところが深センは“ワイルド・サファリレベル”。一瞬でも気を抜けばあっという間に競合が出てきて、あっという間に抜き去っていく……そんな厳しい環境下が深センだと思います。中国の中でも深セン が一番“ワイルド”なマーケットだと思います。今日はそこで絶対に勝ち残れる企業を選びたい」と審査員を代表して力強く宣言した。

日本のベンチャーを取り巻く環境は“幼稚園レベル”と評価した夏野氏

 

栄冠を勝ち取ったのはまさかのドローン企業

今回、企業によって披露されたプロジェクトは、音声データを独自のアルゴリズムによって解析し、人の喜怒哀楽や気分の浮き沈みを判定するプログラム、不動産に特化した投資型クラウドファンディング・マーケットプレイスの開発、訪日外国人の不満解消とオンラインによる情報提供をワンストップで実現するサービスなど多種多様。そうした中、特に審査員を惹きつけたのがエアロネクストの「4D Gravity」(ドローンの飛行姿勢や動作に応じて重心位置を最適化させる一連の技術の総称)だ。

プレゼンテーションの時間は6 分。その後質疑応答となり、各グループには計10分間程度の時間が与えられた

本大会はベンチャー、スタートアップ向けピッチコンテストであるため、そのプロジェクトの詳細は規定により記せないが、このエアロネクストのプロジェクトには審査員5名の内4名が最高点をつけた。ほかの企業がITを使った新サービスやソフトウェアで勝負する中、唯一ハードウェアを持ち出して来た企業であり、実機を用いた動画を使ってプレゼンするなど“異彩”を放っていたのは事実で、審査員のひとりが「(審査は)迷いましたが、今回は中国に、深センに送り込むとしたらどこがいいか?というところにフォーカスしました」と語ったことから判断するに、もしかしたら“ドローン大国”である中国にあえてドローンをぶつけていくことで日本の世界における立ち位置を推し量る目論見もあったのかもしれない。

 

いずれにせよ、エアロネクストのドローン技術が現時点で画期的なものだとしても、すぐにコピーされてしまう懸念はある。その点について同社CEOの田路圭輔氏は「多分、戦い方もDJIとかとはまったく違うと思うんです。DJIを競合とも思っていないですし、逆にDJIと積極的に組めるような、例えばラインアップの1つとしてうちの『4D Gravity』搭載機があるような。うまく連携しながらマーケットを大きくしていきたい」と述べ、コピー問題や競合云々以前に、まずはドローン産業自体を大きくすることを強く望む。「ドローンができることを広く証明していき、まずはマーケットのボリュームを大きくすることにこの2、3年は使いたい」とし、「僕はハードウェアとしてのドローンは行き詰っている印象を持っている。そこに“風穴”をあけるのが僕らの大きな目標。『こういうアプローチがあったんだ』という衝撃を深センで与えたい」と来たるべき世界大会を見据えた。

最終予選に進んだ各企業の関係者と審査員。優勝したエアロネクストは9月に深セン市南山区で開催される世界大会に出場し、そこで各国の代表と共に再びプレゼンを行う予定だ

 

【ライター:飯塚竜二】

関連リンク:渋谷区と深セン市南山区が連携、スタートアップ向け国際ピッチコンテスト開催へ

 

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